サステナビリティ目標を見直すとき、ブランドは何を説明すべきか
スターバックスが2026年7月に公表した最新のインパクトレポートで、サステナビリティ目標の再編が明らかになった。2030年までに水使用量と廃棄物を半減するという従来の目標は外れ、排出量を半減する目標も、規制や基準の変化などを理由に再評価中とされた。同年9月には、こうした目標の見直しが20億ドル規模のコスト削減策と並行して進んでいると報じられた。
こうしたニュースは、たいてい「後退」「裏切り」という言葉で語られる。環境に熱心だった企業が、採算を理由に約束を引っ込めた、と。その見方も分かる。ただ、少し立ち止まりたい。目標を下げること自体は、経営環境が変われば、起こりうることだ。むしろ、これから増えるかもしれない。
ブランドは、一貫性を求められる。ただし、一貫性とは、過去と同じ判断を続けることではない。環境が変わったときに判断を変えても、その判断が何を守るためのものなのかがつながっていることだ。変わらないことに、信頼が宿る。ところが、時代は動く。規制も、技術も、市場の期待も、数年で変わる。一貫性を守りすぎれば時代に取り残され、時代に合わせれば一貫性が揺らぐ。企業は、この矛盾の中で生きている。サステナビリティ目標の撤回も、その矛盾が表に出た一つの場面だ。
だとすれば、問われるのは、未達という結果だけではないのかもしれない。過去の約束と、今の判断の間を、どう言葉でつなぐか。そこに、もう一つの焦点がある。
約束を変えるなら、なぜ変えるのか。何を優先したのか。以前の自分たちと今の自分たちは、どこでつながっているのか。それが語られれば、撤回は方針の更新として受け止められる余地が生まれる。語られなければ、同じ撤回が、約束の反故に見える。事実は一つでも、説明のありようで、受け取られ方は変わってくる。
一つ、気になる点がある。今回の件では、水の使用量について、従来より狭い範囲の数字だけが開示され、全体像を追いにくくなったという指摘がある。ここが、難しいところだ。目標を下げることと、実態を見えにくくすることは、本来、別のことだ。前者は経営判断として説明できる。後者は、説明から遠ざかる動きに見える。
ただ、正直に言えば、その線引きは、見た目ほど簡単ではない。どこまでが誠実な簡素化で、どこからが説明からの逃避なのか。測定方法の変更には、もっともな技術的理由があることも多い。だから、外から「これは隠蔽だ」と断じるのは、慎重であるべきだと思う。それでも、一つだけ言えるのは、見えにくくなれば、見ている側はたいていそれに気づくということだ。
撤回を信頼につなげている例がないわけではない。この目標は当時の前提では正しかった、だが状況が変わった、だからここは変える、ただしこの部分は守る、その理由はこうだ。そう順を追って語る企業は、撤回しても、かえって誠実に映ることがある。判断の筋道が、言葉になっているからだ。
世の中は、不確実だ。立てた目標が、数年後も正しいとは限らない。だから、目標を下げること自体を、責めても仕方がない。むしろ、これからも起きるし、増えていくのだろう。そのとき、私たちは、各社がどう説明したかを一つずつ見ていくことになる。撤回の作法を持つ企業と、持たない企業の差は、たぶん、そこで静かに明らかになる。
参照
Starbucks 2025 Impact Report(2026年7月): https://about.starbucks.com/press/2026/starbucks-2025-impact-report-progress-investments-and-results-across-coffee-opportunity-community-and-environment/