投資家はなぜ、ESGを信じながら信じないのか
投資家の言葉を額面通りに受け取ると、混乱する。EYが2022年に世界320人の機関投資家を対象に行った調査では、78%が「たとえ短期的な利益の減少につながっても、企業は自社事業に関わるESG課題に対応する投資を行うべき」と答えている。 一方、2024年に世界350人の機関投資家を対象に行った調査では、92%が「多くのESG関連投資や取り組みでは、短期的なパフォーマンスへのリスクが長期的な利益を上回る」と回答し、66%が、自らの所属機関では今後、投資判断におけるESG要素の考慮が減る可能性があると答えている。
「ESGは重要だ」と言いながら、実際の投資判断では短期的なパフォーマンスを優先する。 EYは、こうした発言と行動の隔たりを「say-do gap」と呼んでいる。
この矛盾は、投資家の不誠実さから生まれているわけではない。少なくとも、短期的な運用成果と長期的な企業価値を同時に評価しなければならないという、構造的な難しさがある。
投資家は本質的に二つの時間軸を同時に管理しなければならない。一つは将来価値——ESGへの対応力が、規制変化への適応力となり、社会からの信頼となり、長期的な競争力の源泉になるという見立て。もう一つは現在価値——今日も利益を生み出し、資本を効率的に活用しているかという確認。短期的な業績や収益性への注目は、後者を評価するためにある。
問題は、この二つが衝突するときだ。脱炭素投資やサプライチェーン改革は、短期的にはコスト増として現れることがある。投資家はその先にある長期的な価値を理解しながらも、目の前のP/Lを無視することができない。実際、EYの2024年調査でも、投資家はESG施策の短期的な影響を評価することには比較的自信を持つ一方、長期的な影響の評価には不確実性が残るとされている。
ここで企業側が陥りやすい誤解がある。ESGの取り組みを数多く開示することが、投資家の信頼を得ることだという思い込みだ。しかしEYの2022年調査では、80%の投資家が「多くの企業は長期的なサステナビリティ投資の合理性を十分に説明できておらず、投資評価を難しくしている」と答えている。 EY 投資家が本当に知りたいのは「ESGをやっているか」ではない。「その取り組みが、どのように企業価値へつながるのか」という因果関係だ。
経路が見えなければ、投資家は足元の利益に頼って判断するしかない。ESGの重要性を認めながら、投資判断では慎重に見える背景には、この評価の難しさがある。
企業に求められているのは、ESGと収益を対立概念として語ることではない。「この意思決定が、5年後にどのようなリスク低減と競争優位をもたらすのか」を、投資家の言語で示すことだ。say-do gapを埋めるのは報告書の量ではなく、意思決定の一貫性と、その経路を語る言葉である。
参照
- EY Global Institutional Investor Survey 2024: https://www.ey.com/en_gl/insights/climate-change-sustainability-services/institutional-investor-survey
- EY Newsroom "Investors shun long-term ESG rewards in quest for short-term gains": https://www.ey.com/en_gl/newsroom/2024/12/investors-shun-long-term-esg-rewards-in-quest-for-short-term-gains