ブランドネーミングの本質|名前は、意味を受け止める器である

名前には意味がある、と私たちは思っている。だから、良い名前とは、事業の中身をうまく説明する名前だと考えがちだ。ところが、優れたブランド名を見ていくと、逆のことに気づく。名前は、意味を説明するものではない。これから獲得したい意味を、受け止める器なのだ。

レクサスという名前は、何かを説明しているわけではない。それでも、あの音の連なりには、優雅で無国籍な洗練がある。トヨタが世界に打って出るとき、日本の名でも既存の車種名でもなく、新しい音を作った。中身を説明する名ではなく、これから注いでいく価値を受け止められる、空の器を用意したということだ。

イタリアの家具ブランド、アルフレックスは、家具を意味する arredamenti と柔軟性を意味する flexibility を掛け合わせた造語だ。意味の断片は残っているが、聞く人はいちいち分解しない。ar と flex という音が、機能的で現代的な質感を、ゆるやかに伝えるだけだ。もっと極端なのがハーゲンダッツで、この名は特定の言語の単語をそのまま採用したものではなく、北欧風に聞こえるようにつくられた造語だ。北欧風に聞こえるよう、意味とは無関係に作られた音だ。ところが六十年使われるうちに、この無意味だった音が、プレミアムなアイスクリームそのものを意味するようになった。器が空だったからこそ、時間をかけて、意味を注ぎ込むことができた。

ここに、名前をめぐる一つの逆説がある。説明力の高い名前ほど、未来の自由度が低い。意味の薄い名前ほど、ブランドが意味を所有できる余地が大きい。

例えば、男性名をそのままブランド名とした、とある男性用化粧品ブランドでは、その強さ自体が、後のカテゴリー拡張を難しくすることがある。その名は、男性向けの製品として、長い時間をかけて強い意味を溜めてきた。若い男性の身だしなみ、という意味が、名前の器いっぱいに満ちている。成功の証だ。ところが、同じ名前で女性向けの製品を出そうとすると、うまくいかない。長年蓄積した「男性向け」という意味が、新しいカテゴリーへの拡張を難しくするからだ。説明力の高さ、意味の強さが、今度は制約に変わる。

意味の薄い器は、後からどんな意味でも注げる。意味を溜めすぎた器は、新しい意味を受け付けない。どちらが良いという話ではない。ただ、名前を選ぶとき、実はその器の大きさと、将来の自由度を、同時に選んでいる。

だから、ネーミングは「美しい音を選ぶ仕事」ではない。仕事だ。響きが良くても、商標が取れなければ使えない。意味が明快でも、事業の広がりを縛るなら重すぎる。四つは互いに引っ張り合う。その緊張の中で、最適な一点を見つける。音遙びとは、最も遠い作業だ。

名前を選ぶことは、これから何を注いでいくかを決めることであり、どこまで注げる余地を残すかを決めることでもある。今の時代の「良い名前」とは、これから企業がつくる意味を受け止めながら、未来の可能性まで狭めない名前なのかもしれない。

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