海外展開は、なぜ無形資産の問題なのか【後編】
海外展開が、いつのまにか価格競争になっている。前編で書いたのは、借りていた無形資産が海外では使えなくなる、という話だった。では、使えなくなったあと、現場では何が起きているのか。
価格競争に落ちるのは、価格以外に共通の言語が残っていないからだ。品質の考え方も、技術の背景も、なぜその値づけなのかという理由も、相手には見えていない。見えているのは数字だけだ。だから数字で比べられる。安いか、高いか。その一軸に押し込まれる。
なぜ、価格しか残らないのか。企業が実際に持っている価値の多くが、無形だからだ。創業からの歴史、どこで品質の線を引くかという判断、何を良しとし何を退けるかという基準。これらは国内では共有された前提として通用している。同じ市場の中にいる相手には、わざわざ言葉にしなくても伝わる。
問題は、その前提が国境を越えないことだ。語られなかった価値は、記録されなかった価値と同じように扱われる。現地の顧客にとって、説明されないものは存在しないのと変わらない。国内で最も自明だったものほど、外では最も見えない。自明であるがゆえに、誰も言葉にしてこなかったからだ。
ここで多くの企業が、発信を増やそうとする。カタログを訳す。ウェブサイトを多言語にする。展示会に出る。しかし、発信の前に飛ばされている工程がある。自社が持っていると思っている価値と、現地から実際に見えている価値の間に、どれだけの、どちら向きのずれがあるのか。それを誰も測っていない。
測らないまま発信を増やすと、ずれた場所に大きな声で語り続けることになる。届かない理由が、量の不足だと誤解される。だから、さらに発信を増やす。悪循環はここから始まる。
海外展開でつまずくのは、翻訳の問題でも発信量の問題でもない。国内で自明とされてきた価値が、現地でどう見えていないかを、誰も測っていないことが原因だ。だとすれば、最初にやるべきは発信ではない。測定である。自社の見え方と、相手からの見られ方。その二点の差を測ることが、すべての起点になる。
アルセル・トでは、この視差を測ることから始める方法を、パラクシオ(PARAXIO)と呼んでいる。